取締役が死亡した場合、その相続人はどのような手続を行う必要があるのか、ご説明します。
・新たな取締役を選任します
取締役が死亡した場合、その地位は当然に終了し、取締役の地位は相続人に承継されません。これは、取締役の地位は会社との委任契約に基づいており、委任契約は受任者の死亡により当然に終了すると規定されているためです(民法653条1号)。
株式会社には最低1名の取締役が必要です。また、取締役会設置会社では最低3名以上の取締役が必要です。そこで当該取締役の死亡により、これらの最低人数を欠く場合には、直ちに新たな取締役を選任しなければなりません。
・取締役が大株主である場合や一人会社の場合
取締役を選任するには、株主総会の選任決議が必要です。もっとも、亡取締役が当該会社の大株主であったり、亡取締役が唯一の株主である一人会社の場合には、そもそも、株主総会を開催することができません。
・遺産分割協議を行います
そこで、亡取締役の相続人が株主たる地位を相続し、株主権を行使する必要があります。相続人が一人である場合や、全株式を特定人に相続させる旨の遺言がある場合には、当該相続人が全株式を承継し、当該相続人が株主になります。
問題は、遺言がなく、相続人が複数いる場合です。この場合には、株式の遺産分割協議を行わなければなりませんが、遺産分割協議には一定の時間が必要となります。その間、会社の意思決定が全くできないとすれば、会社の経営が危ぶまれます。そこで、遺産分割協議が終了するまでの間、以下の手続を行います。
なお、株式の遺産分割協議については【株式の遺産分割】をご参照ください。
・相続人間で、株式についての権利行使者1名を決定します
相続人が複数いる場合には、株式の遺産分割協議が終了するまで、相続人間で株式の共有が生じます。 複数の相続人間で株式の共有が生じた場合、相続人は、当該株式についての権利を行使する者1人(権利行使者)を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法106条)。この権利行使者の決定は、各相続人の持分の価格に従い、その過半数で決定します(民法252条)。
・権利行使者を決定できない場合
相続人間で権利行使者を決定できず、株主総会を開催できない場合(たとえば相続人が法定相続分で各々平等の持分をもち、協議がまとまらない場合など)には、裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます(調停分割)。
もっとも、遺産分割調停は通常、多大な時間を要します。そこでこれらの手続きと並行して、裁判所に対して一時取締役の選任を申し立てることができます(会社法346条2項)。裁判所が必要性を認めた場合には、裁判所が選任した弁護士が一時的に会社の取締役として選定されます。
これらの手続を放置していると、その間、取締役を選任することができないため、会社の経営が成り立ちません。会社の経営が立ち行かなくなり、会社の破産に至るケースも生じます。
相続人間で協議がまとまらない場合には、一度、弁護士にご相談ください。
スムーズな会社経営の継続のために、あらかじめ備えましょう
以上のように、大株主や取締役が亡くなった場合に、その相続人間で株式の配分が定まっていないと、その後の会社経営に思わぬ火種を残すことがあります。
ご自身の死後、会社経営について意向がある場合には、あらかじめ、遺言を作成するなどし、誰に株式を保有させるか明確にしておくことが望ましいでしょう。
詳しくは【会社の後継者争いを防ぐために】をご参照ください。